署名原稿の意味

「書いた原稿を見せてください」
 ミュージシャンの取材を終えると、担当者からそう言われることがある。原稿を読んで赤字修正を入れて戻される。それを見て、がっかりする。事実確認ならやっていただけるとむしろありがたい。前後の流れに沿った発言の修正もある程度は理解できる。がっかりするのは、評価や表現に関する記述にまで修正が入ることだ。当たり前のことだが、評価や表現は執筆者のものだ。そこを変えようとするのは越権行為に他ならない。
 
 で、編集者にいかりの電話を入れる。
 取材掲載費をもらっているから、ここはひとつ、呑んでくれないかと頼まれる。仕方なく、にがい、つばを呑み込む。
 
 こういう非常識なことをやる人がたまにいるんだよね。有名なミュージシャンもいた。何なんでしょう。署名の意味がわかっているのでしょうか。自分で書くか、ほめてくれる人を日頃から探しておけばいいのにね。そういう努力もしないで、他人がほめる記事で宣伝に使いたい。こういう料簡がせこいのです。
 
 ある時期、音楽雑誌とは思えないほどの高い発行部数を記録した某誌の回顧録に同じような記述があった。時代が変わり部数が落ちてきた頃から、厚顔無恥な修正を要求されるようになってきたようだ。雑誌というものが昔のような権威や影響力を失い始めた頃でもあったことも関係があるのかもしれない。
 時代がどう変わろうが、署名原稿の意味を忘れないでほしいものである。