エスクァイアの批評家投票

 アメリカの男性雑誌『エスクァイア』は、批評家投票で楽器別に選出したベスト・ジャズメンを発表した。選ばれたメンバーでオールスター・バンドを編成し、コンサートを実施して大成功を収めている。その批評家投票が実施されたのは、1944年、1945年、1946年。担当編集者が異動になったので、三度で終わった。編集者の名前はアーノルド・ギングリッチ。5年後、彼が編集部に戻ると、再びジャズを取りあげるようになったそうだ。ジャズ・コンサートは第一回が最も盛況だったという。同年の選出メンバーを紹介しよう。各楽器の一位(最初)と二位だ。
 
トランペット ルイ・アームストロング クーティ・ウイリアム
トロンボーン ジャック・ティーガーデン ローレンス・ブラウン
クラリネット ベニー・グッドマン バーニー・ビガード
サックス コールマン・ホーキンス ジョニー・ホッジス
ピアノ アート・テイタム アール・ハインズ
ギター アル・ケーシー オスカー・ムーア
ベース オスカー・ペティフォード ミルト・ヒントン/アル・モーガン(同点)
ドラム シドニー・カトレット コージー・コール
ヴァイヴ レッド・ノーボ ライオネル・ハンプトン(同点)
男性歌手 ルイ・アームストロング レオ・ワトソン
女性歌手 ビリー・ホリデイ ミルドレッド・ベイリー
軍隊推薦 アーティ・ショウ ウィリー・スミス/デイブ・タフ(同点)
 
 1940年代の半ばだから、順当な結果だろう。だが、当時は、黒人系のジャズメンが多いことに驚きがあったという。そのことに驚いてしまうが、そんな時代だったのだ。批評家投票の狙いもそこにあった。読者投票では、アイドル的な人気のミュージシャンが選ばれて、ビリー・ホリデイのような称賛されるべき真に優れたアーティストが正当な評価を受けにくかった。そうした危惧から、2人の批評家、レナード・フェザーとロバート・ゴフィンが立ち上がり、エスクァイアの編集者を説得したのである。そのかいあって、ルイ・アームストロングアート・テイタムビリー・ホリデイなど、偉大なジャズメンが一堂に会すことになった。
 チャーリー・パーカーディジー・ガレスピーなどは? モダン・ジャズを創始したビバップ勢の名前は見あたらないが、1945年、46年の批評家投票の「ニュー・スター」の項目に、パーカーやガレスピー、ビリー・エクスタインなどの名前が登場する。

 この批評家投票で、もう一つ、印象深かったことがある。批評家達の顔ぶれだ。ジョージ・アヴァキアン、レナード・フェザー、ロバート・ゴフィン、ジョン・ハモンド、ハリー・リム、ボブ・シール、バリー・ウラノフなど、計16名の批評家の投票により選出されている。ジョン・ハモンドとジョージ・アバキアンは、言わずと知れた著名ジャズ・プロデューサー。レナード・フェザーは最も有名なジャズ評論家だろう。ウラノフも有名な批評家で、メトロノーム誌の編集者でもある。1960年代にインパルスで活躍するプロデューサー、ボブ・シールの名前もあることに驚くが、当時まだ22歳だった。優秀な人々は長年にわたって活躍するものだと改めて思った次第である。キーノート、フェイマス・ドアなどのプロデューサーであるハリー・リムも知られているだろう。ロバート・ゴフィンはベルギー出身の音楽学者で、ジャズ関する本格的な本を最初に著したそうだ。アベル・グリーンはバラエティ誌、エリオット・グレナードはビルボード誌の編集者。E.シムズ・キャンベルは、エスクァイアの読者にはおなじみの漫画家である。
 このような多士済々なジャズ好きの著名人達による批評家投票は、真に重要なジャズメンにスポットライトを当てたことにより、世の中のジャズに対する評価や認識に少なからず影響を与えたものと思われる。

 

エスクァイア』1944年2月号より。投票結果の一部