アメリカの東海岸と西海岸では、ジャズの演奏スタイルが異なっている。大雑把な言い方をして恐縮だが、東海岸は黒人、西海岸は白人のジャズという見方もできるだろう。
最も大きく異なるのはリズムである。代表的なドラマーの名前を挙げれば明白だ。アート・ブレイキーやエルヴィン・ジョーンズ、ロイ・ヘインズなどが東海岸、シェリー・マン、スタン・リービー、ラリー・バンカーなどが西海岸である。
東海岸のアフリカ系のミュージシャンは、やはりポリリズムが基本にあり、その複雑さのある自由度の高い演奏にたけている。ヒップホップやクラブ・ジャズもまさしくそうだ。それがニューヨークで誕生したモダン・ジャズ、ビバップやハードバップの大きな特徴となった。それに対して、西海岸のジャズ・ドラマーは、時計のように正確にリズムキープに専念する。ドラムだけではなく、ベースも同じである。延々、ベース&ドラムが一定のリズムとグルーブをくり出す。それに気づいた時、東海岸のリズムに慣れていた自分は、驚いたものだ。よくもまあ、これほど長く、正確に一定のリズムキープがやれるものだと。
この変化の少ない、正確なリズムキープに専念するジャズ・スタイルは、どこから来ているのか考えてみた。一番大きい要因は、西海岸のジャズはジャズ・オーケストラ出身者が多いことだ。中でも、スタン・ケントン楽団の出身者は、西海岸のジャズの主要人物として活躍したことで知られる。
もう一つは、西海岸はハリウッドの街であることだ。映画音楽の需要があった。映画音楽はクラシック音楽の素養のある人が担うことが多く、ジャズ・オーケストラ出身者は譜面に強いから有利だった。そのようなクラシック音楽の素地が、変化の少ない正確なジャズのリズムキープにつながる、と考えるが、どうだろうか。
また、西海岸はロックにも同じようなことがいえる。西海岸のロックといえば、イーグルス、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル、ドゥービー・ブラザーズ、ドアーズなどが有名だ。数年前、イーグルスのベスト盤が今でもものすごいセールスを記録中というニュースを見て、ベスト盤を聴いてみた。それで変化の少ない正確なリズム、一定のグルーブ感のキープの長さに驚いてしまったのである。一流のスタジオ・ミュージシャンでもこんなグルーブ感は出せまい。ドゥービーのリズムにしても、まるでミニマルのように似たようなリズムが長く続き、同時に心地よさもキープしている。
こうしてみてくると、ジャズのみに限らず、西海岸全体の音楽体質なんではないかと思えてくるのであった。
東海岸出身だがケントン楽団以降、
西海岸の主要ドラマーとして活躍したスタン・リービー