ロリンズ “サキコロ”を語る

「よくある録音日のひとつだった」

 

 ソニー・ロリンズは、世紀の大傑作『サキソフォン・コロッサス』の録音について聞かれてこう答えた。聞き手はジョシュア・レッドマン。ジャズタイム誌のインタビュー記事だ。

 

 ジョシュアはこう質問した。

 「『サキソフォン・コロッサス』は、私にとってあらゆるジャンルの音楽の中で最も影響力のあるレコードです。あのレコードを録音した時、何か特別なものを感じましたか? それとも、音楽においてよくある瞬間に過ぎなかったのでしょうか?」

 

 それに対して、ロリンズは答えた。

 「いつもと全く変わらない、ありきたりのレコーディング日のひとつだったよ。(Just another record date) 私にとって、初めてのレコーディング日でもなく、何か特別な意義があったわけではない。もちろん、素晴らしいミュージシャンと共演できたレコードだったよ」

 

 ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』が、ジャズ史上最高の傑作のひとつであることに疑問を呈する人はいないだろう。あのアルバムにおけるロリンズの即興演奏は、神がかっているとしか言いようのないものである。プロデュースしたボブ・ワインストックも、「ソニー・ロリンズは凄すぎた。彼が最大限に真価を発揮したのは、間違いなく『サキソフォン・コロッサス』である」と称賛を惜しまない。また、このアルバムでロリンズが成し遂げた即興演奏について、ガンサー・シュラーが解説した「ソニー・ロリンズとテーマ別即興演奏への挑戦」という論説も有名になった。

 なぜ、これほど突出して素晴らしい作品が生まれたのか。そこには何か要因があったのではないか。誰もがそう思ったのではないだろうか。

 その答えが、「よくある録音のひとつだった」といういうから、ズッコケてしまった。

 

 確かに、次から次に、リーダー/サイド両方で傑作を録音していたロリンズの全盛期であったから、この日もいつもと変わらない日であったという印象を持っていても不思議ではない。

 だが、本人はそう思っていても、聞き手はそうではない。ロリンズに取材する機会があれば、『サキソフォン・コロッサス』について何か聞き出そうと考えるものだ。しかし、おもしろいもので、このアルバムについて聞かれたロリンズは、「セント・トーマス」のクレジットが正しくないと弁明することに気持ちが向かっているようだった。

 「あの曲は、子供の頃、(元デンマークヴァージン諸島出身の)母がよく口ずさんでいた<Vive la Compagnie>というデンマークの歌をアレンジしたものなんだ。ワインストックがオリジナル曲として登録してしまった」と、ロリンズは語っている。原曲を聴いてみたが、似た感じの箇所はあるものの同じ曲とは思えなかったな。ロリンズの謹厳実直な人柄を思い起こさせるエピソードではある。

 

 とはいえ、われわれにとって、『サキソフォン・コロッサス』のレコーディングが、特別すぎる一日だったことに変わりがない。奇跡というものは、何でもない日常の中で生まれるから、奇跡と感じるのかもしれない。

 

サキソフォン・コロッサス』