ジャズを好きになったはいいものの、乗り越えられない壁みたいなものに遭遇する。その壁が原因となり、避けてしまうことがだれでもあるだろう。そんな壁の大きなもののひとつが、ポリリズムである。
ポリリズム=複合リズム、複数のリズムが同時に演奏されること。これはアフリカ発祥で世界に広まった。ジャズのポリリズムの名手といえば、アート・ブレイキー、エルヴィン・ジョーンズ、ジャック・デジョネットである。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズやジョン・コルトレーン・カルテット、キース・ジャレット・トリオが好きな人は、体がポリリズムを受け入れているわけだ。
デジョネットは人の感覚神経に沿うような繊細なバチさばきをするので、歌を聴いているような感覚に近いリズムといえるかもしれない。だが、ブレイキーとエルヴィンは、おそらくプロでも予測不可のリズムがドコスコ打ち鳴らされるので、何がどうなってるのかわからず混乱する。こうした「わからない」という感覚が苦手意識を生む。
しかし、物事は慣れである。慣れれば、苦手意識が真逆の心地好さに変わることがあるものだ。かく言う、ぼくもブレイキーやエルヴィンのポリリズムが受け付けにくくて、なかなかモダン・ジャズへ入り込む感覚を得られなかったものだ。マックス・ローチやトニー・ウイリアムスなどは、最初からすんなり受け入れることができたが、ブレイキーとエルヴィンは時間がかかった。でも、慣れてしまえば、こっちのもの。これぞジャズ、これぞジャズ・ドラムの最高峰、なんて思ってしまうのだから、おもしろいものである。
そういえば、ロイ・ヘインズのアクセントの入れ方もポリリズムっぽい予測不可能なものだったので、受け入れるまでしばらく時間がかかった。これも慣れてしまうと、頭の裏側をコンコン打っているような感覚がすごくおもしろくなってきたものだ。
わからないの克服は、いがいと慣れで解決するものですな。