「ホテル・カリフォルニア」のギター・ソロ

 ジャズとロックは、異なるところがいくつもあるが、最もわかりやすい相違点はソロだろう。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」について、興味深いエピソードがある。ロック史上最高ともいわれるギター・ソロが入っている曲だ。
 同曲をレコーディングする時の話。ギター・ソロはドン・フェルダージョー・ウォルシュが演奏した。ソロを主導したのはこの曲を作曲したフェルダー。ところが、ドン・ヘンリーからダメ出しが入った。ヘンリーはドラムを叩きながらこの曲ではリード・ボーカルを担当する。あの妙なるハスキー・ボイスの持ち主であり、同曲の作詞者でもある。
 ドン・ヘンリーのクレームはこうだ。「フェルダー、それ違うだろ」「えっ?何が」「デモテープと同じ演奏をしてほしい」 ヘンリーはフェルダーがつくったデモテープのギター・ソロがいたく気に入っていたのだ。デモをつくったのは一年も前のことなのでおぼえていない。困惑したフェルダーは自宅に電話して、デモテープを再生してもらい、レコーディングに臨んだという。
 今ならライブ動画が簡単に見られる。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」のライブを何種類も確認してみると、見事なまでにギター・ソロは、オリジナルとほぼ同じであった。こんな話もある。彼らはギター・ソロを即興で変えたい時もあるようだが、違うソロにすると、今度は観客がクレームを言う。「レコードと違うじゃないか!」
 面白いことに、ジャズはこれと真逆なんだよね。ジャズのソロは即興でおこなう。それがジャズだ。似たようなソロを何度もおこなったり、誰かのソロを無意識でも拝借したりすると、ブーイングが起こるというか批判されるものだ。「レコードと同じじゃないか!」 

 というか、ジャズ・ミュージシャン自身も同じソロをするのを嫌がるのです。リハーサルを嫌うのもそのせいだろう。ライブのファーストセットとセカンドセットのソロも違うものだ。
 しかし、「ホテル・カリフォルニア」のギター・ソロ、あの完成された演奏を何度も聴きたくなるのも事実である。ロックの場合、ソロは主旋律に近い存在で、歌のないもう一つの主旋律なのかもしれない。

 

Hotel California/The Eagles