クールなロマンティシズム

 ビル・エヴァンスの音楽を表現する言葉で悩むことがある。ロマンティックやロマンティシズムという言葉の使い方が難しいのだ。
 
 ロマンティック 軽くて弱々しい感じがする
 ロマンティシズム 言葉自体はサマになっているが、何だか使いにくい
 
 リリカルやリリシズムも同じだ。
 それで、あれこれ迷って、自分が使った表現が「硬質のロマンティシズム」だった。ロマンティックであっても弱々しさはなく、強い印象を受ける表現だ。でも、何があっても揺るがない自己、という感じではあるけれど、硬くて金属質な印象を与える。
 
 そんな時に出会ったのが、この表現だった。
 クールなロマンティシズム

 なるほど、これはいい。ビル・エヴァンスの演奏における、抑制感や自分を律する感じや美的なものをうまく表現できていると思った。ロマンティックは、感情や情緒の動きを示す言葉であるのに対して、感情に左右されない理知的な、クールという冷静な感覚と結びつけている。
 この言葉は、『ビル・エヴァンス-ジャズ・ピアニストの肖像』(原題『Bill Evans - How My Heart Sings』)で出会った。著者はピーター・ペッティンガー、訳者は相川京子。
 原文では、この箇所は「a cooler romanticism」となっている。冷却器みたいだわね。この場合のcoolerは比較級、more coolということなんだろうけど。冷静で、落ち着いた、張り詰めた空気感のある、あるいは、かっこいい、ロマンティックな演奏なのである。
 
 クールという言葉はジャズではよく使われる。そのクールという形容詞とロマンティシズムをドッキングさせたのが素晴らしい。
 「形容詞+名詞」
 これは、その形容詞の持つイメージと名詞の持つイメージが離れているほど、強いインパクトを与える。でも、イメージが正反対のものをくっつければいいと思って探しても、うまくいかないものだ。うまくはまる組み合わせを試していたら、日が暮れてしまいそう。
 
 とはいえ、「クールなロマンティシズム」が至上の組み合わせなのかどうか、もっとドンピシャの表現がありそうな気もしている。探してみませんか。

 

Bill Evans 1964 by wikipedia