ジャズ・ファン気質

 マウントフジ・ジャズ・フェスティバルに英国のヒップホップ・グループ、US3が出演した時の話。演奏が始まり、しばらくすると関係者席に一人のおやじがすっとんで来た。「おい、これはなんだ! ジャズじゃないだろ! ジャズじゃないバンドを出すなよ!」 怒号が鳴り響いた。関係者は対応に困り、なだめようとするも、怒りはしばらく収まりそうもなかった。関係者席は広い野外会場の一番後方にある。ステージから離れていたので、怒鳴り声は近くにいた僕の席でも聞こえたのだ。1994年の出来事だ。
 この時の思い出が鮮烈に残っている。これがジャズ・ファンなんだよなあ。このおやじを頭が固く心が狭いジャズ・ファンとお思いでしょうか。実は僕も若い頃はそういうふうに考えることがあったが、後からそうではないことに気づいた。ひとつのジャンルなり、スタイルなり、ある傾向を持つ音楽なりを深く追求していけば、自然とそうなっていくものなのだ。これは他のジャンルの音楽でも絵画などでも同じようなものだろう。
 いや、あれこれ幅広く音楽を楽しめばいいじゃないか。新しいもの今流行っているものをあれこれ楽しみたい。それもまっとうな意見ではあるけれど、ひとつのものを深く追求していけば、他のものに時間を費やす時間などあまりないのである。そして、深く追求すればするほど、その傾向のものがさらに好きになっていくものなのだ。
 そうしたジャズ・ファンの中でも、音楽そのものとは直接関係ないような細部にまでこだわるのはいきすぎだとは思うが、いずれにしても、深く掘って行く人達は、幅広く楽しむ人達よりも、その傾向の音楽を数多く聴いているのは事実。それだけ造詣が深く、愛情も深いのである。

 

マウントフジ・ジャズ・フェスティバル by wikipedia