「慣れ」の問題

 ハードバップしか聴かない人がいる。ニューオリンズ・ジャズ以外は受け付けない人がいる。フュージョンしか興味がない人もいる。いろんな人がいる。その中で、最も多いのは、やはりハードバップのファンである。1950年代のジャズ、その時代のビバップハードバップを合わせたジャズ・スタイルしかジャズと認めない人が多い。ジャズ喫茶の店主、年季のはいったジャズ・ファンはおよそそんなイメージがある。
 私はある特定のスタイルにこだわらず、割に幅広く楽しむほうだ。だが、長年ジャズを聴いている内に自分もハードバップ全盛時代のジャズを中心的に飽きずに聴き続けていることに気づいた。マイルスだって、コルトレーンだって、ロリンズだって、ハードバップ時代が好きなのである。あれこれいろんなものを聴いて、そこに辿り着いた実感がある。
 なぜ、人は、ある種のものの魅力にとりつかれるようになるのか。そして、その他のものを受けつけにくくなっていくのか。
 この命題に対して、私はひとつの答えに到達した。
 それは、「慣れ」の問題である。長年聴いているとそれに慣れる。慣れれば慣れるほどそれがよくなってくる。それがより一層好きになってくる。その他のものがいらなくなってくる。そういう結論が出た。
 そんなことを考えていた時、ピアニストのエディ・ヒギンズが語ったこんな言葉を発見した。

「Familiarity Breeds Acceptance.」
「No Matter How Well You Play It, If They Don't Know It, They Won't Like It.」
「No Matter How Badly You Play It, If They Know It, They'll Love It.」

「慣れが受け入れを生む」
「どんなに上手に演奏しても、曲を知らなければ、好きになりにくい」
「どんなに下手な演奏でも、曲を知っていれば、好きになりやすい」

 その曲やその演奏スタイルに、慣れていればいるほど、よく知っているものであればあるほど、それは受け入れやすいものになる、というわけだ。ある特定のジャンルやスタイルを長く聴けば聴くほど、親しみが増し、より好きになって行くのである。

 

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エディ・ヒギンズの初期の代表作