「愛してる」って二度言えるか。
マイルス・デイヴィスは、自分たちのやっている音楽、そしてジャズにおいては、同じ演奏を二度やりたくないという意味で、このように語った。ダウンビート誌のライター、ハワード・マンデルの取材の時だ。
マイルスは「タイム・アフター・タイム」のレコーディングを終えたばかりだった。こう語っている。「スタジオでは何も起きないし、何も感じない。『ポーギーとベス』の時もそうだった。I mean you can't say “I love you” twice. それは感じた時に言うものだ。それに、バラードを演奏するときは何よりも自分と向き合うものだからな」
スタジオで何度もテイクを重ねたマイルスは、嫌気がさしていたのかもしれない。
この発言は、ジャズメンがリハーサルを嫌うことと同じ意味である。本来、即興演奏を体得するジャズメンにとって、同じ演奏を続けてすることは不可能なのだ。
愛していると二度続けていえない、という言い方は、非常にマイルスらしい表現である。それだけ、ソロの瞬間瞬間に全身全霊を投影する姿勢が伝わってくる。
マイルス・デイヴィス・クインテットのメンバーだったウェイン・ショーター、ロン・カーターがこの問題について語った記述も見つけた。
ウェインは自己のグループでは一度もリハーサルをせずに活動したという。それをふまえて、「未知のものをどうやってリハーサルするんだ?」と語っている。この言い回しも実にショーターらしい。
ロン・カーターはシンプルだ。「リハーサルは嫌いだ。いい案が無駄になる。弾きながら修正すればいい」 わかりやすい。
ウェインやロンは1960年代にマイルス・デイヴィス・クインテットに在籍した。その際、即興精神を十分すぎるほど会得したのだろう。それだけではなく、ジャズ・アーティストとしての考え方や音楽性などもマイルスから学んだと思われる。