名盤はやはり名盤

 どのジャズ・アルバムを聴けばいいのかわからない。それの指針になるのが、「名盤」である。しかし、名盤という言葉はあまり見かけなくなった。マストアイテム、必須盤などの言い方があるのかもしれないが、インターネットでは特に通販関係で過剰に賛辞する表現がうんざりするほど溢れている。
 ジャズの世界には、「世界文学名作全集」や「ナツイチ」のような、公認された名盤のリストのようなものが存在するわけではない。個人単位での推薦盤や名盤選が紹介されることはあっても、やはり誰もが認めるような形でオーソライズされた名盤リストがあってほしいものだ。
 昔はそれなりに名盤リストはあった。評論家が本でアーティスト別やスタイル別の代表作を紹介したり、日本でも海外でも雑誌の企画や別冊で名盤選が特集されることがよくあった。本でも雑誌の企画でも数が多かった時代である。そんな中から、登場する頻度の高い作品が有名盤となり、名盤として認知されるようになったのだ。逆に、権威主義的にも受け取られて反発を買うこともあった。
 僕はといえば、例にもれず、片っ端から本や雑誌で紹介された有名盤や名盤を聴いた。5、6冊参考にすれば、数人以上が取りあげている有名な作品のリストが出来上がるものだ。数年経ってから、少しずつ、自分ならどれを代表作とするか、そういう意識で聴くようになった。名盤というものを知るには名盤を聴くだけではだめだ。平凡な作品や駄作も聴いて初めて、名盤の名盤たる理由を実感できる。だから、結局、たくさん聴くことになるのであった。
 その結果わかったこと、名盤とされるものは、やはり、出来がいい。聴けば聴くほど、知れば知るほど、そのことを、つくづく実感させられるのだった。『ジャズ・ジャイアンツこれが決定盤』(スイングジャーナル刊)、『ジャズ・レコード・ブック』(粟村政昭著)、この二冊は特に指針となった本だ。
 文学や映画やクラシック音楽は、今でも、世界的に公認の名盤リストがあるように思う。ジャズもそうなってほしいものだ。こう思うのも、ジャズの名盤への関心が薄れていくのはさびしいからである。

 ジャズ・ファンはとかく、名盤というものを語りたがらない。あまり人が注目しないジャズメンや作品などを語りたがる性格の持ち主だ。人が注目しないところを語ることで、自己をアピールするのが好きなのだ。そうではなく、名盤というものは、ジャズに詳しい人、愛情のある人に良さが語り継がれるべきである。

 

 

『ジャズ・ジャイアンツこれが決定盤』