即興について(2)偶然完全

 即興演奏はジャズの最大の特徴ではあるものの、「即興とは何か」と考えたり即興について説明したりするのは難しいものだが、似ているものならいくつか思い浮かべることができる。その中で、最も強いインパクトで引きつけられたのは、俳優勝新太郎の評伝『偶然完全 勝新太郎伝』(田崎健太著)のタイトルである。「偶然=即興」こそが「完全」であるという考え方や捉え方は非常に興味深い。その本から偶然完全について書かれた箇所を引用しよう。
 

── 勝は「偶然完全」という造語をよく使った。

 例えば、人と人がたまたま出会って、素晴らしい関係を築くことがある。あらかじめこのような人と会うと心構えをしていれば違った関係になるかもしれない。偶然だから、完全な関係が生まれる。

 勝は芝居にも偶然完全を求めた。(中略)偶然完全を求める勝の手法は、常に破綻の危険が伴う。綱渡りの撮影は、勝自身を追い詰めていった。──
 
 勝新太郎は演技、演出において即興性を尊ぶ人であった。なるほど、そうでないと、あの座頭市の殺陣シーンにおける緊張感や生々しい迫力は出ないだろう。ジャズ・ミュージシャンがリハーサルを嫌い、即興を重視するのと同じである。
 それにしても、偶然や無意識から生まれたものにわれわれはなぜこうも引きつけられるのだろう。素晴らしい即興演奏から生まれた名演は、何度聴いても飽きが来ない。何度聴いても、即興から生まれたソロを丸覚えできないからか、聴いている演奏は予測不可能であり続ける。何度か聴いてソロを覚えてしまうような人なら飽きることがあるのかもしれないね。
 即興についてあれこれ考えるのはおもしろいものだ。

 

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映画『座頭市物語』のポスター